【第一話①】レジ打ち対決

今日は店休日明けの金曜日。おそらく、1か月の中で１、2位を争う憂鬱な日。

平日に突如現れる最終木曜日の店休日を満喫すればするほど、翌日の出勤日が辛くてたまらない。

平日の休み、それは私たちスーパーで働く人にとって何よりも幸せな1日なのだ。

空いている街、必ず座れる電車、平日料金で入場できる美術館やカラオケなど、世の中が忙しく動いている中、さまざまな利益を享受できる、神様からのプレゼントのような1日なのだ。

ちなみに昨日は、同僚の理恵と新しく駅前にオープンしたパンケーキが人気のカフェに行った。

休日なら確実に２時間は並ぶであろうカフェになんと15分で入店。限定15食の日替わりスペシャルパンケーキを余裕で注文し、お昼から気づけば夕方までひたすらしゃべっていた。

内容はほぼ覚えていない（笑）

でも、一番盛り上がった話題は田口さん、通称テツコの話だった。テツコはとにかくうざい。

この道30年のテツコは、パートでありながら誰よりも店のことを熟知しているので、ほんの些細なミスをチクチクと指摘してくるのだ。

社長よりも社歴が長いので、社内でテツコに堂々と反論できる人は誰もいない。

なので、私たちはこうやって、休日の貴重なリラックスタイムを使ってテツコの不満をぶちまけているのだ。

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今週のテツコはどうやら美容強化習慣だった模様。

月曜日からかなり気合の入ったパーマヘアで登場した。本人は、女優でもイメージしているのか自信に満ちた表情だったが、私たちには火曜サスペンス劇場に登場するスナックのままにしか見えなかった。

コッテリ塗られたリップと真っ黒のアイライナーが、その印象をさらに際立たせていた。

テツコの部屋ー入ったら2度と出られなくなりそう。怖すぎる・・・

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「おはよー！」

更衣ロッカーに入ると、きのうも一緒にすごした理恵がすでに着替えていた。元レディース店員の理恵は、スーパー店員らしからぬおしゃれさん。

今日も、最近雑誌でよく見かける人気ブランドのワンピースを着ている。

私だったら、どうせダサイエプロンに着替えるのだから、わざわざおしゃれしてこようなんて思わない。さすがトミオカのファッションリーダー！

理恵：今日、朝イチレジなんだよねー。店休日明けって朝イチめちゃめちゃ混むじゃん。憂鬱だわー。しかも相方テツコ！

私：うわーテツコでた！今日も火サススタイルで堂々登場かな　笑　ポイントカードおすすめしないとめちゃキレるから気をつけて。

理恵：もう覚悟は決めてるよ。そういえば、洋子さんも午後からテツコとレジですよね？

酒田：そうだよーライバル心が芽生えるね

私：あーテツコって洋子さんに嫉妬してる部分ありますもんね〜

理恵：あー自分の方がキャリが長いのに、洋子さんが同じくらい実力あるから。

酒田：ほんっとあいつさ、私がレジ打ちしてたらギロって睨んでくるくせに、自分の方が早く終わったらちょっと笑ってアドバイスとかしてくんの

私：先輩感存分に出してきますよね

酒田：ほんっと、そうだよ

理恵：あとめっちゃ髪かきあげますよね

私：かきあげるかきあげる！！なんか”できる先輩”感だしてるつもりなんだろうけどさ、全然でてないよね

理恵：マジでー1ミリも出てないよ。てかかきあげる髪もないくせにかきあげんな

私：あんなにかきあげるから髪なくなったんじゃないですか？

酒田：なくなってはないけどね

今日も、お局テツコへの悪口をぶちかまし仕事へのぞんだ。

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午後3時。

洋子さんがテツコとレジ打ちをする時間。私と理恵は、品出しをしながらちらっとレジ打ちの様子を伺った。

私：おーやってるやってる笑

理恵：どっちも顔がマジだね

現在は人は少ないが、レジにいるお客さんはざっと数えて10人。バイトの子に2人、テツコに4人、洋子さんに4人。

商品の量的には、若干洋子さんの方が多いか・・・？

ちなみにテツコは、自分が負けた時は「私の方が商品を多く持ってるお客さんが多かった」と言うが、テツコが勝った時には「量が多かった」なんて言い訳は通用しない。

なので、単純に洋子さんの方に商品を多く持ったお客様がくると不利なのだ。そしていま、洋子さんの方が商品数が多い。

私：ピンチだね・・・

理恵：一旦様子見だね・・・

二人の目線に気付いたのか、洋子さんもテツコもさらに気合が入ったのが分かる。テツコに至っては、お客様が現金を出す一瞬の隙を狙って前髪をピシッとピンで止めた。

髪の毛1本でも集中を邪魔するものは許さない！そんな空気がビシビシと伝わってくる。その空気に圧倒されたのか、テツコの前にくるお客様まで動きに無駄がなくなっている。

これは、今日のテツコ無敵モード！午後休で洋子さんをしっかり励ましてあげよう、そう思ったその時・・・

「ピーーーー」っとテツコのレジの方から音がなった！なんと、レシート用紙がなくなったのだ。

これはピンチ！レシート用紙の交換は、早い人でも10秒はかかる。10秒と言えば、商品3つくらいはスキャン可能。今の二人の差を考えると、まだテツコが有利ではあるが。。。

あれ？テツコがもたついている？

なんと！レシート用紙のストックが0！これは、事務所裏のストックスペースまで用紙を取りに行かなくてはならない。走ればこれも10秒ほどだが、店内は走るの禁止。

テツコは、諦めた様子でお客様にあやまり、事務所の方へ早歩きで向かっていった。

ニヤニヤが抑えきれない私と理恵。テツコにバレないよう、お互いの顔を見合わせて昨日のドラマについて話している風を装った。

戻ってくるテツコ。もうさっきまでの気迫はなく、完全に諦めモード。前髪のピンもずれて、すっかり乱れている・・・

これでまた、テツコのネタが一つ生まれた。

ちなみに・・・昨日のレシート用紙補充担当は私。テツコにバレる前に、昨日の担当表の名前消しておこうっと。